「自動車メーカーがスマホを投入」の流れが始まった中国

中国の自動車メーカー、上海蔚来汽車(NIO)が関連会社を通じてスマートフォン「NIO Phone」を発表しました。NIOはEV(電気自動車)を展開しているメーカーですが、EVとスマートフォンは相性が良く、自動車メーカーのエコシステムの中にスマートフォンを取り込む中で、スマートフォンまでも自社で展開しようとしています。

NIOのEVはETシリーズ、ESシリーズ、ECシリーズと3ラインあり、すでに中国で販売中です。またヨーロッパもドイツなどに一部車種を輸出しています。また2022年9月からはハンガリーに電源関係の工場も稼働させており、グローバル展開を着々と進めています。ヨーロッパはEU・各国がEVシフトを明確に打ち出していることもあり、中国の新興EVメーカーにとって参入しやすい市場ともいえるのでしょう。

NIOのEVのコックピット中央には12.8型のタッチパネルディスプレイが搭載されており、インテリジェントシステム「Banyan」が搭載されています(最新バージョンはBanyan 2.0)。車体の状態管理から地図検索、そして運転支援や車内インフォテイメントなどあらゆる操作が可能。さらにダッシュボード上には丸いディスプレイに表情を表すAIアシスタント「NOMI」も搭載しています。

筆者はNIOの自動車をIAA Mobility 2023が開催されたミュンヘンで2023年9月上旬に初めて見てきましたが、新興メーカーとは思えない出来の良さに改めて驚いたところです。自動車は専門分野ではないものの、EVとなるとスマート機能が随所に搭載されていますから今後しっかりと追いかけなくてはいけません。

さてNIOのこれらの車内インテリジェントシステムはそのままスマートフォンやタブレットでコントロールできますが、他社のスマートフォンを使わせるくらいなら自社ブランドのスマートフォンを使ってもらおうということで開発されたのがNIO Phoneということでしょう。

NIO Phoneを使えばNIO LINKによりBanyanシステムとの接続もシームレス。UWBを使ってスマートフォンから手軽にドアロックの開閉が可能、電池が切れてしまっても48時間内ならNFCでドア操作もできるとのこと。また音声AIのNOMIもスマートフォンから利用できます。音声AIシステムを自社開発したことでユーザー嗜好やニーズを直接学習できます。

では消費者が自動車メーカーのスマートフォンを買うメリットはあるのでしょうか。自分の自動車がNIOであり、今後展開されるであろう様々なサービスをどんな場所でも受けられるとなれば、大手メーカーのスマートフォンから乗り換えるメリットはあるでしょう。NIOも「車とつながるスマホ」を出したのではなく、NIO Phoneを通して生活サービスなどを展開すると考えられます。

さて自動車メーカーのスマートフォンとしては、中国Geely(吉利汽車)の関連会社が2022年7月にスマートフォンメーカーのMeizuを買収。Geelyとボルボの出資した高級車メーカーLynk & Co(領克汽車)のEVにMeizuのスマートフォン向けOSを車載向けにした「Flyme Auto」を搭載。またMeizuのスマートフォンとしてもFlyme Autoとの連携を強化した「Meizu 20」シリーズを出しています。

ということですでに自動車メーカー側からのスマートフォンへのアプローチは中国では始まっています。中国ではグーグルサービスが使えないので車内インテリジェントシステムは自社開発が必要なだけに、自動車メーカーとスマートフォンメーカーの協業もこれから進むでしょう。

中国ではすでにファーウェイがSeres(賽力斯集団)と提携してEVの「AITO(門界)」シリーズを展開しているのはあちこちでニュースになっている通り。AITOはファーウェイのスマートフォンやIoT機器と同じHarmonyOSを搭載しており、自動車にかかってきたビデオ電話を車内の大型ディスプレイに投影し、そこから目的地を検索して音声でカフェの注文を指示する、といった作業までをスムーズに行うこともできます。現時点ではかなり進んだシステムと言えます。

さてスマートフォンと自動車というと常に「Apple Car」の噂が出てきますが、人命を預かる自動車の開発がそう簡単に進むとは思えません。また各国の規制もあります。中国での自動車開発は様々な面で多国よりも行いやすいこともあり、自動車とスマートフォンや人がシームレスにつながるシステムは中国が世界をリードするように見えています。

中国の自動車メーカー、上海蔚来汽車(NIO)が関連会社を通じ…