プロカメラマンに学ぶ写真の現像#2-現像とビット深度について-

本記事は、筆者がプロカメラマンのヤギシタヨシカツ氏の力を全力で”無駄遣い”して写真の現像について深ぼるシリーズです。第1回はこちらからお読みください。

さて、前回はiPhone14 Proで撮影した写真をSony α7CRで撮影した写真に”寄せる”現像を通して、現像ソフトの見方、使い方、現像の手順を体系的に学んでいきました。その過程で純正カメラアプリを用いた際、iPhone14 Proで晴天順光の撮影条件で撮影した場合の写真データの特徴は“明るい部分がより際立つこと”だということがわかりました。本記事では、この特徴を持つがゆえに残念な写りになった写真のデータを眺めつつ、写真の現像と写真の保存形式の話を深掘りたいと思います。

暗部が“浮く”?iPhoneが苦手な撮影条件

早速ですが、筆者が撮ってきた残念なiPhone写真をα7CRの写真と共に見ていただきましょう。

ミラーレス機(左)とiPhoneの写真(右)(両機ともに現像前)

今回の撮影条件は夕暮れ時に太陽が写真奥のビル街に落ち、空の一部が白んでいる程度の明るさです。Sony α7CRで撮影した写真は中央部の空の色が上空に向かって橙色→白色→青色という綺麗なグラデーションを描くことに成功しています。一方で、iPhone写真ではこのようなグラデーションが確認できません。また全体的に明るく写った結果、空の明るさとの対比で暗く写って欲しい手前の通路やビルの1階部分が見えてしまっています。いわゆる暗部が“浮いている”状態で、写真作品というよりは記録に近いです。(iPhoneで撮る写真としてはその用途をしっかりと満足しています。)

黒を締める現像

では前回と同様にiPhone14 Proで撮影した写真をSony α7CRで撮影した写真に近づけるよう現像することを目的として、それぞれの写真データを比較します。

輝度のヒストグラムの比較

輝度のヒストグラムを比較すると、iPhoneでは“暗部を潰さない、明部を飛ばさない”、RGB的な考えでいけば#000(ヒストグラム横軸の1番左)の領域と#FFF(ヒストグラム横軸の1番右)の領域を必要以上に広げすぎないことが自動的に行われていることが確認できます。その結果全体的に明るくなるよう無理やり露出を上げているためフレア感(極めて強い光源にレンズを向けた時に発生する暗部への光の漏れ)が出ています。そこで、現像の大まかな方針としては以下のとおりです。

  • 暗部をあえて潰す:ヒストグラムの最暗部のピークを左に寄せる
  • 明部の情報量を落とす:明部のピークを低くする
露出、ハイライト、シャドウの調整

この方針に則って、はじめに露出を下げます。ヒストグラムが全体的に暗部に寄ることで暗部側のヒストグラムの形状がよりSony α7CRのヒストグラムの形状に似てきます。しかし、最暗部にヒストグラムの谷ができていることと、明部側に必要以上に空白ができていることが確認できます。よってカーブの始点と終点をそれぞれヒストグラムの最明部(ハイライト)位置と暗部の谷の右側に調整します。この操作は一般に現像ソフトに搭載されたハイライトやシャドウの数値を変更する操作とは異なり、例えばLightroomでハイライトスライダーを動かす場合はヒストグラムの明部を上下に動かすこととなります。
上述のようなカーブの始点終点を狭める操作により明暗さをより強調することができますが、以下のようなバンディングノイズの発生に注意する必要があります。

バンディングノイズと情報量の関係

バンディングノイズとはハイライト部からシャドウ部までのなだらかな階調性が損なわれ、一部境界ができて縞模様が現れていることを言い、階調飛び、トーンジャンプとも言われます。

バンディングノイズの発生

輝度のヒストグラムを用いてバンディングノイズの発生を考えていきます。今回の場合はカーブの始点と終点の位置を狭めていますので、下図左側のヒストグラムの一部を切り取って右側のような新たなヒストグラムを形成していることと同義です。このとき情報の総量は変わらないため全体に対する一つ一つの明暗情報の幅の割合が大きくなり、情報のなだらかさが失われます。このようにしてバンディングノイズが発生します。

バンディングノイズの発生メカニズム

このことから、上図左のヒストグラムの段差の幅が狭く、すなわち横軸方向の情報量が多ければ現像時の操作によりバンディングノイズが発生しにくくなることが言えます。例えば写真の保存形式において8bitや12bitなどという数値で表されるビット深度はまさにこのヒストグラムの横軸の細かさを表すわけで、8bitならば2の8乗(256段階)、12bitであれば2の16乗(4,096段階)という情報の細かさの差が発生します。なおJPEG形式であれば8bit、RAW形式では一般的に12bitであるため、現像を前提とする場合にRAWで保存する意味がこの情報量の差から見えてくるかと思います。

仕上げ(ビネット、彩度、色温度)

さて、ここまで来ればあとは前回と同じ手順でビネット(ヒストグラム形状の修正)、色温度、彩度を調整しましょう。最終的な仕上がりは以下のようになりました。

Sony α7CR(左:RAW)とiPhone14 Pro(右:現像JPEG)

これも前回と同様見分けがつかない状態となりました。iPhone写真においても写真中央部の橙色→白色→青色という綺麗なグラデーションがしっかりと描写されていて、手前の暗部もしっかり黒色がしまっています。

おわりに

今回はiPhoneの純正カメラアプリの特性と特に相性が悪い撮影条件で撮影した写真の現像を行ないました。現像の過程でデータの一部を切り取るような操作を行なっているため、特にRAW形式で保存していることが重要なポイントとなりました。その他TIFF形式などさらに情報量の多いファイルの保存形式などもあり、また写真雑誌に投稿されている作品の現像過程のファイル形式にこだわる写真作家さんもいらっしゃることから、デジタルカメラの現像ではファイル形式を意識することが重要となります。

本記事は、筆者がプロカメラマンのヤギシタヨシカツ氏の力を全力…