映画「バッドボーイズ」最新作を見に行ったらとんでもカメラとビンタの応酬だった。
by Balshark
映画「Bad Boys: Ride or Die」が6月21日に公開されました。同作は映画「Bad Boys」シリーズの第4作目であり、マイアミ市警の敏腕ベテラン刑事コンビが繰り広げるド派手アクション映画です。そして本作は、2022年のアカデミー賞授賞式でのクリス・ロック(Chris Rock)への平手打ち以降アカデミーの舞台から去ることとなったウィル・スミス(Will Smith)のスクリーン復帰作となりました。
Bad Boysシリーズは1995年公開の第1作目「Bad Boys」よりスタート、当時ミュージックビデオやCMのディレクターとして活躍してきたマイケル・ベイ(Michael Bay)の初監督作品となり、同作から最新作の「Bad Boys: Ride or Die」にいたるまで主演はウィル・スミスとマーティン・ローレンス(Martin Lawrence)が務め上げています。
最新作はアメリカ現地時間6月7日(金)にアメリカ国内の3,885館の映画館で公開され、同週末(6月7~9日)で興行収入5,600万ドル(約88億円)を叩き出し、全米オープニングNo.1の大ヒットスタートとなりました。ウィル・スミスの主演作としては18本目の全米オープニングNo.1作品となり、全世界オープニング累計興行収入は早くも1億460万ドル(約164億円)を突破しています。(6/10付Box Office MojoおよびDeadline/THR/Variety調べ、1ドル=156.9円換算、6/10現在)
ブランクのある人気シリーズを現代に復活させられた理由
このように長年にわたるシリーズでありながら現代においても大ヒットを記録し続ける「Bad Boys」シリーズですが、その影には3作目よりメガホンを取ったアディル・エル・アルビ(Adil El Arbi)とビラル・ファラー(Bilall Fallah)コンビの存在があります。彼らが監督を務めた3作目「Bad Boys for Life」は人気作でありつつも長いブランクのあった同シリーズを現代に復活させる上で違和感のない作品となっています。
その一つに「捜査のIT化」があります。同作といえば情報屋や服役中のハッカーを使った昔ながらの人脈フル活用な捜査スタイルがシーンの大半を占めていますが、現代に復活させるにあたりカメラ映像解析、犯罪歴のデータベース化、AIを駆使した捜査、時にはドローンで敵の本拠地に放銃(なお4作目では爆弾投下機能が追加)などとにかくテクノロジーのアップデート祭りです。
ちょっと突っ込みたいテックなポイント
3作目を細かく見てみるとIT化の背景が見えてきます。Piece of the Action(上記Youtubeチャンネル)に公開されている特殊部隊AMMOでのシーンをよく観察してみると操作端末はSurfaceであることがわかります。
実は現実世界でもMicrosoft社はアメリカ国内の公安と司法に対してMicrosoft Azureを中心としたAIプラットフォームとBIツールのサービスを展開しており、公式ホームページからもサンフランシスコ警察(S.F.P.D: San Francisco Police Department)などを始めとした公的機関への導入事例を確認することができます。
もちろんアメリカ国内でのシェアや公的機関であるために国内メーカーの製品を使うので元より違和感も少ないのですが、Microsoft社の導入実績を見るに現実世界での同社の製品利用率も高いかもしれません。(なおミッションインポッシブル最新作ではIMFの操作端末はASUSでした。)
一方で2024年5月の段階ではMicrosoft社がアメリカ警察の顔認識を目的とするエンタープライズ版AIツールの導入について、各州の法的準備が整うまでその導入を禁止するという声明を発表しており、その背景にあるのはOpenAIの急成長であることから、特殊部隊AMMOはB.C.(Before Christ)ならぬB.O.(Before OpenAI)の世界線となってしまいました。
もう少し細かなツッコミをするならば4作目でも活躍するドローンがどう見てもDJI製に見えることです。3作目の公開が2020年であることを考えると、おそらくDJI Marvic 2を採用していることがわかります。
実はDJI社はMarvic2をベースとしたEnterprise版を警察など公的機関向けに販売しており、DRONEXLによれば「ワシントンにおける規制があるにも関わらず、アメリカ警察はDJIのドローンにお熱だ。」とレポートされるほど、同スペックのアメリカ製ドローンに対し3~4倍のコストパフォーマンスを誇るDJI製ドローンの導入が進んでいるとのこと。
これらの現実世界の事実に基けば、同シリーズを現代に復活させるにあたりアメリカ国内メディアを通じて「現代の警察はこうあるはずだ!」がアイデアとなり、具現化された映像に観客も違和感を抱くことが少なかったのかもしれません。

4作目の見どころはとんでもカメラ装備?
本作の公開が近づくにつれ話題になっていたのは主演のウィル・スミスのSNSアカウントを始めとした関係者のSNSにて公開された最強の自撮りカメラをつけたアクションだったのではないかと思います。こちらのカメラリグはSnorriCamと呼ばれる装着型のカメラリグで、ウィル・スミスのInstagramの内容によれば、彼はSnorriCamにつけられたRED V-Raptorを直接操作して俳優の視点から方向感覚を狂わせる様なダイナミックな視点までを自身で撮影しています。

このSnorriCamのコンセプトは1932年から存在しましたが、実は当時のシネマカメラを取り付けて撮影するにはあまりにも重く、使える役者あるいは撮影者自体がかなり限られたものでした。この機器はアイスランドの写真家兼ディレクターのエイナル・スノリとエイドゥル・スノリという2人によって発明されました。SnorriCamの公式HPによると、スノリ兄弟は1990年代半ばにニューヨークでパンクバンドの低予算ミュージックビデオ撮影のためにこのカメラリグを作ったとのことです。
その後彼らの友人であるエリック・ワトソンが撮影現場にいて、自身がプロデュースしている映画でこのリグが使える可能性に気づいたということです。さらに現代ではRED社の小型高スペック(同作品で使われるV-Raptorは8K 120fpsのグローバルシャッターという超高スペック)が登場し、数々の映画作品の製作現場に導入されていったようです。とは言いつつもウィル・スミスはカウンターウェイトとカメラ付きのリグをつけながら自身で撮影もしているわけですから、使いこなせる俳優は少なそうですね。

本当の見どころ?ウィル・スミスが復帰作で清算したこと
*以下若干のネタバレを含みます。
本作は3作目のストーリーを一部引き継ぐ形でスタートします。その中でウィル・スミス演じるマイク・ラーリー刑事は3作目において過去の因縁からジョー・パントリアーノ(Joe Pantoliano)演じる上司ハワード警部を目の前で亡くし、4作目においてパニック障害を発していることが明らかとなります。そして物語のクライマックスで敵アジトを眼前に銃撃戦が繰り広げられる中、マイクはマーティン・ローレンス演じる相棒マーカス・バーネット刑事に平手打ちを喰らって平静を取り戻します。そうです
ウィル・スミスがビンタされる映像が流れます。しかも何発も。
これはアカデミー賞授賞式での出来事「The Slap」を受けて自分も平手打ちをくらう気分を受けて反省しているのか、もしくは話題を作り少しでも興行収入を伸ばそうとする彼の自己犠牲なのか。個人的には見ていて「めっちゃビンタされてる!w」と興奮してしまいましたが、真相はまだ語られていません。ウィル・スミスの2023年暮れごろのメディアでの発言ではクリス・ロックとの和解を望んでいる旨を述べていましたが、クリス・ロックとの和解は未だ公の場でなされていない状況で「やったな」という感じです。

なおInTouchに掲載された匿名情報によれば、クリス・ロックは近い関係者に対し以下のように発言していたとのことです。
Chris thinks it’s a pretty cheap stunt and he’s telling people how lame he finds it. It’s a classic case of Will making light of a horrific situation. Will’s playing the victim. It was the lowest point of his career, but that’s no excuse.
クリスはBad Boysの最新作はかなり安っぽいスタントだったと考えており、とてもダサい内容だったと語っているとのこと。ウィルはこの状況を軽視しているという最悪な状況に陥っており、さらには彼は被害者を演じている。彼のキャリアにおいて最低な状況ではあるが、何の言い訳にもならない。
真相はわかりませんが、The Slapを連想させるシーンとその元凶であるウィル・スミス自身がアカデミーから10年の出禁を食らっているにもかかわらず、業績が危ういアメリカの映画業界に多大なる貢献をしているのがとても皮肉な状態です。
おわりに
このようにBad Boysの最新作を見にいったところ、昔懐かしのシリーズを現代に復活させる上で違和感のない現代をリアルに反映した技術背景や、最新のカメラにより撮影が可能となったアクションシーン、そして自分でその話題に触れるのかよ!と突っ込みたくなる脚本と情報の海でした。なお、本記事で紹介していないインフルエンサーやマイケル・ベイのカメオ出演など見どころ盛りだくさんのため、ぜひスクリーンに足を運んでみてください。
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