M5Stack社ジミーCEOに訊く深圳流ものづくりの極意(その1)

M5Stack社は、M5StackやM5Stampといったコンパクトなマイコンモジュールを製造・販売している中国深圳のスタートアップ企業です。M5Stack社の製品は、Makerと呼ばれるものづくりを趣味とする人々に広く受けいれらています。M5Stackをベースにしたロボット「スタックチャン」も話題になりました。

また、西和彦氏が中心となって進めている次世代MSXプロジェクトの一つ「MSX0」も、最初に登場する製品はM5Stackを採用しています。

M5StackをベースにしたMSX0 Stack

先日、創業者のジミーCEOをはじめとするM5Stackの幹部3名が、Maker Faire Kyotoや西和彦氏とのミーティングのために来日しました。西和彦氏のご厚意により、ジミーCEOらと西和彦氏のミーティングの後に、ジミーCEOにインタビューをさせていただき、M5Stackの強みや西和彦氏の印象、創業経緯や深圳のものづくりのスピード感など、興味深い話を訊くことができました。そこで数回に分けて、インタビュー記事を公開します。

M5Stackを創業したジミーCEO

ジミー氏へのインタビューでは、スイッチサイエンスの高須正和氏に通訳をしていただきました。ジミー氏が一人称として語っているコメントはジミー氏による発言とし、高須氏によるコメントは高須氏の発言としました。

左がジミーCEO、右がスイッチサイエンスの高須正和氏

高須:この3人が普段深圳にいる、M5Stack社の社員です。CEOのジミーとハードウェア関係を見ているハンシャオとソフトウェア、ウェブ関係を見てるリュウボの3人で、今回、Maker Faire Kyotoのために来日しました。僕はM5Stackに投資をしている日本代理店のスイッチサイエンスの会社員で、普段はずっと深圳にいて、ビジネス開発とかM5Stackとの会議をやったりしています。中国企業のパートナー探しや、日本で売れるためにどう工夫したらいいかとか、マーケティングをどうやるかといった仕事をしています。

左からハードウェア担当のハンシャオ氏、ソフトウェア担当のリュウボ氏、CEOのジミー氏

人が喜んでくれるものを作ることがM5Stackのゴール

ー:まず、M5Stack社の理念や競合に対する強みについて教えてください。

ジミー:他の会社とM5Stackを分ける1番のポイントは何かというと、M5Stackはとにかくものを作りたいし、作ったもので買ってくれた人、使ってくれた人が喜ぶようにしたいということです。世の中のほとんどの会社はお金を稼ぐことがゴールですが、我々は人が喜んでくれるものを作ることがゴールです。それが他の会社とM5Stackの1番大きな違いです。では、我々はどんな物を作りたいかというと、人間が何か物を作るときに必要な色々なことを簡単にしたいんです。簡単にしたいというのは、必要な物を簡単に探せるみたいなことでもあるし、ある程度出来上がっているから楽に作れるみたいなことでもあるし、簡単に使えるということでもあるし、安いということでもあるかもしれません。とにかくいろんな簡単さがあるんだけれども、なるべく人が物を作ることを簡単にするということを追い求めていきたい。

 だから、お客さんがM5Stackの製品を使ったことで、できないと思ってたことができたとか、面倒くさいと思ってたことが簡単になったみたいな話を聞くとすごい嬉しいです。

ー:私も昔からMaker Faire Tokyoにはよく行ってますが、ここ何年か、M5Stack社の製品を使ってなにか物を作ってる人がすごく増えている印象です。やはりM5Stackの使いやすさが周知されてきているんだと思います。

ジミー:もちろん、今のような成功を日本で収められたのは結構ラッキーな部分もあると思います。M5Stackは今、日本で1番成功してます。M5Stackの売上げの35%ぐらいが日本で、アメリカが20、25%ぐらいで、中国が10%から15%の間ぐらいで、中国が1番うまくいってないんですよ。その残りが、残りがヨーロッパとアフリカなんですが、日本で1番成功した理由は、まず日本人がこのM5Stackの簡単さをみんなが分かってくれたことです。そしてスイッチサイエンスや秋葉原のいろんなお店が、M5Stackの製品を並べてくれて、買おうと思えばすぐ手に入る状態にしてくれたということも結構大きくて、他の国だとM5Stackの製品を買うのが結構大変だったりするんです。

 だから、まず何よりユーザーがいてくれた。それからいろんな人たちがちゃんと流通してくれて、物を届けてくれた。結果として、M5Stackの魅力を日本のMakerたちはよく分かってくれている。それはラッキーだったと思います。

高須:ただ、最初彼が話したのは今の僕らみたいな代理店の話ですが、もう1つはM5Stackの方でもちゃんといいチームを作って、チームみんなで、設計であったり、材料の調達であったり、マーケティングであったり、製品レビューであったり、簡単にするにはどうすればいいかと、とことんやってくれるメンバーに恵まれた。その2つがすごく幸運だったと彼は言ってます。

 ほとんどの会社だと、社長は基本的にお金のことを見ていて、プロダクトマネージャーはもちろん製品のことを考えるんだけど、プロダクトマネージャーに対してイエス、ノーを言うのは社長で、社長の視点はその製品がどれぐらいお金を生むかで決めることが多い。でも、M5Stackの場合はジミー自身がプロダクトマネージャーで、ジミーの観点はこれ結局いいものなのか、悪いものなのか。ユーザーの発明をもっと簡単にするものなのか、しないものなのかということで、基本見ている。そこが他の会社と違う1番のポイントだと。将来、ジミーの他にプロダクトマネージャーを採用するかもしれないんだけれども、たとえ採用するとしても、ジミーが見る視点は、そのプロダクトマネージャーは、みんなにとって、いいものを作ったか作ってないかということだと、儲かりそうかそうでないかは、いけてるものが作れるかどうかの後に考える話であると。

MSX0を西さんと一緒にやれたことはとてもいい経験だった

ー:MSX0はハードウェアとしてM5Stackを使いますが、MSX0についてはどう思いますか?

高須:まず、ジミーが元のMSXを知ってたかというと全然知らないし、そもそも1980年代、中国にコンピューターなんかほとんどなかったから、別にジミーが知らないだけじゃなくて、他の中国人に聞いてもMSXのことはあんまり知らないと思います。そもそも彼は1982年生まれなので、MSXが誕生した頃は幼児でしたし、その頃の中国は鎖国に近い政策を取っていたせいもあるし、お金もなかったので。ただし、ジミーの回答とは別に最近の中国ではレトロコンピュータブームが起きていて、若い子がPC-98を触ったりしてるんですけど、それは別に昔触っていたから懐かしいというわけじゃないんです。ジミーは、触ったことがないレトロコンピューターを初めて触る趣味はないので、要は、昔のMSXのことは、知らないですと。

 それはそれとして、MSX0については、ジミーもすごくいい機会だと思っていると。いくつか理由があるんだけど、1つ目の理由として、今のMSX0プロジェクトは、 西さんと周りの人たちの日本側がソフトウェアを作って、ジミーの方でハードウェアを作っている。M5Stackは基本的にハードウェアを売ってお金を儲ける会社なので、社員のほとんどがハードウェアに関わっている。逆にいうとソフトを中心に考える人っていうのは、あまりいないわけです。だから、コラボレーターとして、自分と全然違う考え方の人と一緒にやれるというのは大きい機会だし、良い機会であるというのがまず1つ。それからもう1つは、ユーザー層としてMSX0をクラウドファンディングで買ってくれた人の大部分がM5Stackを全然知らない。でも、コンピューターやテクノロジーは大好き。つまり、M5Stackと相性がいい多くのユーザーをMSXは持っている。彼らと出会える機会を作ってくれたというのがすごく嬉しい。

 最後の理由は、MSX0の開発チーム、今ここにいる人たちは、今ここにあるプロトタイプを含めて、いろんなアイデアをくれると。いろんなアイデアをくれて、一緒に何か物を作るきっかけを与えてくれるというのは、すごくありがたい。その3つですね。

プロトタイプを次々作るところが西さんの素晴らしい点

ー:西さん本人についてはどう思いますか?。

高須:西さんとジミーは今日で4回目の会議なんですよ。これまで3回はオンラインで、今日初めて直接会ったんです。だから、そんなに色々喋ってるわけではないんですけど、1番素晴らしいと思っているポイントは、とにかくプロトタイプが出てくる。ものが出てくることが1番大事なので、こんなにたくさんプロトタイプが出てくる会社は、日本の会社ではほとんど見たことがないと。深圳の人はものがないと話にならないので、ものがたくさん出てくることが本当にありがたいし、一緒にやりやすい。それがまず1つです。

 それから、M5Stackのコンセプトを理解することはそんなに簡単ではなくて、日本だとみんな知ってるけど外国では成功してない中で、西さんはM5Stackのプロダクトについてすごくよく分かっている。その、物を作ることをもっと簡単にしたいというジミーの思いや、それがM5Stackの製品に注ぎ込まれていることをとてもよくわかっている。それはすごくありがたいことであると。

 西さん個人については、とにかく物事の理解が早い。それで、ちゃんと正確に物を理解できている。それはそんなに簡単なことではないので、素晴らしいことだし、それから、 いろんなアイデアをバンバン出してくる。それもすごく素晴らしいことで、一緒に仕事ができるのは嬉しいと言っています。

 ジミー自身がもちろん技術やコンピューターは好きなんだけど、要は今あるもののほとんどがあるようになってから入ってきている。つまり、別にパーソナルコンピューターを作ったわけでもないし、インターネットを発明したわけでもないし、それらが揃ってからいろんなものを作り始めている。西さんは、コンピューターを産んだとは言わないけれども、パーソナルコンピューターを産んだみたいなレイヤーからやっている人なので、西さんから学ぶことはいっぱいあるし、尊敬もすごくしてると。

M5Stackの幹部3人と西和彦氏をリーダーとするMSX0プロジェクトのメンバー、スイッチサイエンスの高須正和氏と九頭龍雄一郎氏

ー:ジミーさんとコンピューターとの出会いについて教えてください。

高須:中学校3年の頃に、家に486搭載のDOS機があったらしいです。それで、英語や中国語のタイピングをしたり、なんかゲームやったりっていうのが、最初のコンピューターとの出会いだそうです。

ー:PC/AT互換機ってことですよね。

高須:多分、おそらく。コンピューターそのものはなんで好きなのか、僕もよくわかんないってジミーは言ったんですけど、486の後もPentiumマシンを買って、という風に定期的にパソコンを買ってはいたみたいなんです。ただ、それはプログラムをやったっていうわけではなくて、紙の上でのコーディングはやってたかもしれない、日本で言うところの「マイコンBASICマガジン」のプログラムリストをそのまま打つみたいなことはやったかもしれないけど、自分で考えてプログラムするようになったのは大学入ってからで、大学でC言語をやったからだと。

ー:中学3年のときに家にパソコンがあったというのはかなり恵まれていますよね。

高須:そうだと思われます。クラスで2人しか持ってなかったっていう風に言ってました。

その2に続きます)

M5Stack社は、M5StackやM5Stampといったコ…

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