ゲームエンジン「Unity」の利用プラン・料金変更でなにが起こるのか

非常に大きなシェアを持つゲームエンジンのUnityが、利用プランの大幅な変更を発表しました。あまりに急激で、純粋な値上げとなるこの変更に対して、今極めて大きな反発が起きています。

反発があまりに強すぎるため見直される可能性もあります。しかしもし発表通りにプラン変更が行われた場合、Unityのシェアや採用タイトルを考えると、今後のゲーム業界に大きな変化が起きそうです。

Unityとは

ゲーム制作は膨大な作業を伴う、複雑なソフトウェア開発です。ゲームエンジンとは、そうした開発を補助したり効率を向上させたりするものです。個別のゲームに全て専用のプログラムを作るのではなく、ある程度共通の基盤を用意して開発することで、様々な恩恵があります。最近では「ゲームプラットフォーム」と呼んだり、ゲーム以外への利用も増えていることから「3Dプラットフォーム」と呼んだりもします。

Unityはゲームエンジンの中で最大規模のシェアを持ち、特にモバイルゲームやXRで圧倒的です。高機能で拡張可能なゲーム開発用のエディタ、豊富な動作環境、2Dや低スペックへの対応などが強み。大きな売上があっても低コストで、最も手軽に使い始められるゲームエンジンのひとつでした。

メジャーなタイトルにも、Unityで開発されているものは多数あります。たとえば『原神』は有名で、Unityの採用をある程度アピールもしています。街作りゲームの傑作Cities: SkylinesはずっとUnityですし、期待されている次バージョンでもUnity採用を明らかにしています。『FALL GUYS』、『Among Us』のようなスマッシュヒット作品もあり、更にはVRChatClusterなどのサービスでも基盤として採用されています。

Unity社自身が「ゲーム開発の民主化」を掲げるように、ゲームという複雑なソフトウェアの開発を、誰もがチャレンジできる分野に変えていった功績は大きいでしょう。無料で使い始められて、そこそこの収益を上げない限りUnity社に払う費用はなし。費用が発生しても、開発者の人数に応じた請求であり、とても負担が低いものでした。こうした利用プランもUnityが普及した大きな要因のひとつと言えます。

しかしそのプランと料金が劇的に変更されることになりました。

プラン変更の概要

公式ブログの発表を元に新しいプランをまとめると、「2024年1月1日から、一定以上の規模を超えたタイトルは、ゲームの新規インストール数に応じた請求が発生する」というものです。

Unity のプランの価格設定とパッケージの更新 | Unity Blog

ただし発表通りのプラン変更が実施されたとしても、大多数の個人レベルの開発者にすぐに請求が発生することはありません。Unity社も反発の大きさから、慌ててその点を火消ししています

しかし企業への影響は甚大で、長期的には個人にも影響が出てくるでしょう。なにより、突然すぎる方針の変更が与える不信感は、Unity社への信頼を大きく損なっています。

ゲームエンジンのビジネスモデル

ゲームエンジンという、ゲームを作る便利な基盤を提供するビジネスは、大きく分けて3つの料金プランを採ってきました。完全に無料でオープンなものも色々ありますが、ここでは割愛します。

まず機能に応じたサブスクリプションプランを提供するもの。GameMakerなどがこのモデルで、モバイルへのリリースなど収益性の高い機能が有料です。カジュアルに始められる無料プランは機能の制限が大きく、目的や規模に応じて徐々にコストが変動します。

次に、利用製品の売上規模に応じてロイヤリティが発生するもの。これはUnreal Engine(UE)が採用しています。UEの場合は採用製品がヒットしたら5%のロイヤリティがかかるという、かなり強気のプラン設計。最高クラスのゲームエンジンを提供できる自負を感じます。

そして、利用者の規模に応じて開発ツールに有料プランを提するもの。一定の規模以上の開発ユーザーに有料プランの導入を義務化しつつ、サポートや追加のツールなどを提供します。これがUnityが採用していた料金プランです。

以前はUnityも高額な利用料を設定していましたが、「ゲーム開発の民主化」というアピールに合わせて方針を変えました。その結果、Unityを使って開発した製品がどれだけヒットし高い収益を上げても、Unity社にそれに応じた支払いは発生しなかったのです。

重要なのはUnity社がビジネスの方針に、「ゲーム開発を民主化する」「無料で使える、大ヒットしても応じた支払いは無くて収益性高い」といったイメージを積極的に作り上げてきた点です。

新しい料金の発生条件

Unityを使って作る限りゲームがどれだけ売り上げても、その量に応じたUnity社への支払いで利益が目減りするようなことはありませんでした。それはUEに比べて大きなメリットのひとつでしたし、今までが安すぎたと言えるかもしれません。

しかし今後は、Unityを使って開発するプロダクトの収益規模と、そのプロダクトのインストール数に応じて、ある時点から追加でそこそこのコストが発生します。Unity社のリリースでは次の条件が挙げられています。

  • Unity Personal または Unity Plus を使用している場合:過去 12 か月の収益が 20 万米ドル以上で、かつ、サービス継続期間中のインストール数が 20 万回以上。
  • Unity Pro または Unity Enterprise を使用している場合:過去 12 か月の収益が 100 万米ドル以上で、かつ、サービス継続期間中のインストール数が 100 万回以上。
Unity のプランの価格設定とパッケージの更新 | Unity Blog

ざっくり言えば「ゲームがそこそこ成功したら、その時点からインストールされるごとにお金取るよ」という内容。20万インストールやゲームの収益20万ドルという壁は、恐らく個人開発者や小規模なスタジオには影響が無く、むしろ到達したい目標でしょう。もちろん約2000万円の収益から、以降1インストールあたり30円近くコストが増加するのは手痛い増加ですが、これから備えることはできるでしょう。

一方、大手が運営するソーシャルゲームやハイパーカジュアルゲームなどへの影響は甚大です。公式フォーラムでは料金の発生判定に過去のインストール数が使われ、料金そのものは新規のインストールにかかる、とされています。つまりすでに巨大なインストールベースを持つゲームは、2024年1月から、従来発生しなかったコストが、以降1インストールごとにかかり始めるのです。

適用条件の判定にインストール数が含まれるということは、Unity社はなんらかの方法でその把握が可能な筈です。インストール時点で何かしらUnity社に送信が行われなければカウントできず、これはプライバシーや不正の懸念も生みます。今のところUnity社はそうしたトラッキングの詳細を明らかにしていませんが、独自のゲーム利用解析サービスも提供しているので、ランタイムレベルでそうした仕組みが組み込まれる可能性は高そうです。

反発の原因

プラン変更に対し、Unityユーザーからは凄まじい反発が起きています。私の周囲でもSNSでも、すでにUnityの新規採用停止を表明した開発者やスタジオを何人も見ています。カルト教団運営シミュレーションの『Cult of the Lamb』のように「2024年1月1日にゲームを公開停止する」と表明するケースすら出ています。

ここまでの反発が起きている原因は、あまりに性急な変更のタイミングと発表、従来Unityがアピールしてきた姿勢との矛盾、そしてインストール数という基準にありそうです。

2024年1月まであと4ヶ月もありません。採用企業は備える時間もないまま、ビジネスの根幹を揺るがされる危険にさらされています。たとえばこれがもっと前から、ユーザーの反応を伺いながら進められたなら、ここまでの反発はなかったかもしれません。

「ゲーム開発の民主化」に代表されるUnity社の従来示してきた姿勢も、加えて感情的な反発を上乗せしています綺麗で革新的な理念を掲げれば掲げるほど、実質はどうあれ、それに一部でも反する方針転換はひどい反発を伴うものです。

そしてこれら反発の根には、信頼の毀損があります。UnityとWin-Winで進む筈だった多くのビジネスが、いつこうした方針転換でひっくり返されるかわからない。ゲームエンジンの採用はある種の協業に近いため、そんな協業相手の変貌を目の当たりにすれば、不安に思うのも当然です。

Unity社の状況

こうした明らかに反発を受けるであろう劇的なプラン変更に至ったのは、Unity社の懐事情に大きく左右されている可能性があります。好調な成長と上場で得た資金で、Unity社はかなり贅沢に買収を繰り返していました。

映像制作の名門Weta Digital、業界標準の植物作成ツールSpeedTreeの開発元 Interactive Data Visualization、AIを活用してテクスチャなどを作るArtEngineのArtomatixなど、高額な買収が次々と。更にはironSourceというアプリのマネタイズ関連の企業を約40億ドルで買収するなどしています。

残念ながらこうした途方もない買収は、ゲーム開発サービスに活かされているとは言い難い状況です。もちろん統合に時間がかかったり、より長期的なプランは存在するでしょうが、少なくともUnityを採用してきたゲーム開発者にとっては、あまり恩恵を感じないものでした。

そして株価の下落、レイオフなどネガティブなニュースが続き、そこへ今回のプラン変更。協業相手のように感じるゲームエンジンが、嬉しく感じられない経営を続けた挙げ句、突然将来に深く影響する方針転換をすれば凄まじい反発を受けるのは、旧Twitterの場合同様です。

なにが起こるのか

これまでUnityを選択してきたゲーム開発者や企業に、このプラン変更はどんな変化をもたらすでしょうか。シェアの大きさからその変化は、ゲーム業界全体に波及する可能性もあります。

ゲームエンジンの変更

いくら個人開発者にすぐには性急が発生しないといっても、将来を見越してUnityを離れるユーザーは確実に増えるでしょう。それだけ今回の料金プラン変更は、メリットの薄い値上げです。今はたとえ自分が該当しなくとも、上限が見えることそのものが悪い判断材料になりえます。少なくとも多くのユーザーに切り替えを検討するきっかけを与えただけでも重大な影響です。

企業や成功したプロダクトは、更にシビアな乗り換え検討を迫られます。2024年1月という期限があまりに近く、切り替えるとなった場合はの作業は膨大です。収益そのものが従来のUnityのプランを前提としているでしょうから、そのままでは成り立たなくなるゲームも出てくるでしょう。

Godotへの変更

Godotは、Unityからの乗り換え先として最も有力な候補でしょう。私の見た範囲でも、すでに乗り換えを検討しているゲーム開発者がちらほらいます。

まずGodotはそのコアがMITライセンスで公開されているOSSです。”オープンソース”に該当するライセンスの中でも、最も制限の緩いレベルのこのライセンスでは、開発そのものに費用が発生することはなく、Unityのプランのような追加のコストも発生しません。どの段階でも完全に無料で利用できます。

Unityからの移行先としてGodotが検討されるのは、2Dゲームやモバイルのハイパーカジュアルゲームなど、Unityが得意としてきた分野をGodotでも比較的カバーしやすいためです。効率は大きく劣るにせよ、恐らくその手のゲームであれば、Godotで再現できないゲームはあまりないでしょう。

OSSのGodotは、独自の道を行くのだと従来他のゲームエンジンとの互換性やユーザーの奪取に否定的でした。しかし今回のUnityの事態を受け、Godotのメイン開発者であるJuan Linietskyですら「状況が変わった」「Unityユーザーに背を向けない」と述べるほどに。

公式の有償サポートが無いことや、広告や解析、いわゆる課金システムの扱いなど弱点とされる要素もありますが、今回の事態でプロの開発者が多数流入すれば、そうした不足も解消されていくきっかけになるかもしれません。

Unreal Engineへの変更

PlayStationやXBoxなどのゲームコンソール、あるいはPCデスクトップなどで遊ばれるゲームの開発では、Unreal Engineのシェアは大きく、年々採用が拡大しています。よりリッチな表現を得意とし、巨大な予算のAAAと称されるタイトルでも採用は多く、特に視覚的な表現力とそのコストパフォーマンスは、ゲームエンジンの中で抜きん出ています。

正直言ってUnityは、近年そうしたハイエンドの表現の提供に失敗しています。グローバルイルミネーションと呼ばれる光の表現や、緻密な形状を手軽に扱える仕組みなど、UEの優位点にあまり追いつけていません。

これまで料金プランの違いから、敢えてUnityを選択してきたユーザーは、プラン変更で切り替えの強い後押しを受けることになります。「この金額差ならUEでいいんじゃないか?」という選択をされると、Unityからリッチなグラフィック表現のゲームは消えていくかもしれません。

Unreal Engineの生みの親でEpic Games CEOのTim Sweeneyも、意味深なタイミングで思わせぶりなポストを。

Defoldへの変更

ゲームがモバイルに多い2D主体のものなら、Defoldも候補になるでしょう。

Defoldは『キャンディークラッシュ』などの有名タイトルを抱えるKingが開発し、現在では完全無償を謳っているゲームエンジンです。ライセンスがApacheライセンスベースの独自のもので、ゲームエンジンやエディタを有償提供してはならない、という制限が課されています。

Defoldは2D特化のゲームエンジンのため、移行できるゲームは限られます。しかしDefold公式がUnity社のリリースにあった価格表を使って皮肉るように、積極的なユーザーの獲得を狙っている可能性があります。

その他プラットフォームへの変更

ゲームエンジンとはやや違いますが、より手軽に使えるゲーム開発プラットフォームでもあるRobloxは、最近追加されたゲームコンソールを含め、無料でゲームを公開可能です。UEのサブプロジェクト的なUnreal Editor For Fortniteも無料で使えます。

従来Unityを使って開発されてきたゲームの中には、スマートフォンなどのアプリストアに出品できるからこそUnityを選択してきたものも多いでしょう。RobloxやUEFNは独自のエコシステムを持つため、それらがアプリストアに代わって十分な収益を提供できるならば、切り替えは十分考えられます。

ビジネスモデルの変更

ゲームエンジンを切り替えるのではなく、ビジネスモデルを変更することで対応するケースも多数登場するでしょう。

F2P

無料で遊べて有料コンテンツやサブスクリプションを狙う、Free2Playと呼ばれるタイプのゲームは、大量の無料ユーザーを前提としています。こうしたゲームでは全ユーザーが収益源ではなく、大多数の無料ユーザーの中から、一部の有料ユーザーを拾い上げます。そのため無料ユーザーが膨大にいないと成り立ちません。

インストールごとに費用が発生してしまうと、ベースとなる巨大な無料ユーザーのコストが劇的に増加します。20万人はかなりの規模に思えますが、離脱したユーザーのインストール数基準で考えると苦しい数字です。

ハイパーカジュアル

無料で遊べる点はF2P同様ですが、主に広告を収益源とする点が特徴です。本来はゲーム内容に紐づく用語の筈ですが、今ハイパーカジュアルと呼ばれるタイプのゲームは、多くがこの方式を採っています。

自身のゲームも大きな広告費を投入して無料ユーザーを増やし、インストールにこぎつければ大量の広告を見せつける。かかった広告費を広告収入が上回れば、インストールベースが巨大であればあるほど収益性が高まります。

インストールするだけで費用の発生するUnity新プランは、広告費に単純に上乗せされるコストの分、ハイパーカジュアルにとって非常に危険です。

売り切り型の増加

新プランの適用条件は、そのゲームによる収益と、そのゲームのインストール数という2つの基準を同時に満たした場合です。つまりどちらかを制御すればコストを抑えられます。

売り切り型で、1件あたりUnityへの費用を含めても十分な収益が上がる売り切り型への変更は、多くのゲームにとって選択しうるオプションです。もちろん支払いという最も高いハードルを超える魅力や仕掛けは不可欠ですが、20万インストールを超える頃にはUnity社への支払いが問題ないぐらいの収益をもたらすでしょう。

あるいは、適用条件が近づいた時点で売り切り型に切り替える、という方法も考えられます。たとえば公開初期には「期間限定で無料公開!」としておいて、インストール数が基準値に近づいたら限定期間を終了してしまう、というのも使えるかもしれません。すでに100万人以上のインストールベースがあれば、以降が有料であってもじっくり伸ばしていける土台にはなりそうです。

公開の停止や中止

個人ゲームの開発者で恐ろしいのが、新プランの適用条件近くまで、ペイできる収益構造を実現できないまま突き進んでしまうケースです。もちろんそのゲームに十分な価値があれば、値上げや売り切りへの転換で対応できるかもしれません。

しかし開発者に大きな収益をもたらすわけでもなく、爆発的な人気があるわけでもなく、それでも長年遊んでもらえているようなプロダクトは、新プランの条件適用が公開中止のきっかけになるかもしれません。

今後

Unity社はその低コストなプランも含めて選択されてきたゲームエンジンです。明らかな値上げは確実にユーザーを減らしますが、どの程度減り、それが続くのかが重要です。

私自身を含め、長い間Unityを使って豊富な開発資産を持つユーザーは、叶うならUnityを使い続けたいでしょう。だからこそ大きな反発の声が出ており、フォーラムなども荒れています。すぐには影響を受けないユーザーであっても、騙されたように感じたり、あるいは将来の更なるプラン変更を疑う声もあります。

このままではかなりのユーザーを、恐らく想定以上に失いかねないため、何らかの追加発表がUnity社から行われる可能性は残されているでしょう。ただし完全に撤回したとしても、それは単に信頼を損ねただけという最悪の結果を残すため、非常に難しい状況です。

非常に大きなシェアを持つゲームエンジンのUnityが、利用プ…