東大生によるメディアアート展示会 東京大学制作展 EXTRA 2023

2023年7月7日(金)から7月10日(月)にかけて開催されていた東京大学制作展EXTRA2023の参加レポートをお送りします。

東京大学制作展とは

東京大学制作展は東京大学大学院情報学環学際情報学府の授業の一環として始まったメディアアートの展示会です。いきなり耳慣れない言葉がたくさん出てきて戸惑われてかもしれませんが、学府や学環について説明を始めると本筋を外れてしまいますのでご興味ある方は以下のリンク先をご覧ください。

https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/about/iii

筆者は東京大学の現役学生や教員というわけではありませんが、客員研究員、連携研究員などとして長年東京大学の教員、学生の方々と交流があるため、若干中の人寄りのレポートであることはご容赦ください。

ただ、客観的に見てこの東大制作展には他の美大、芸大の制作展とは違う独特の魅力があると感じ、ほぼ毎年訪れてしまっています。美大生、芸大生は表現によって生きていきたいと考えている、あるいはとにかくいま表現をしたいものがあり、それらが作品からにじみ出ています。

しかし、東大制作展で見られる作品の多くはまたそれらと方向が異なり、まだ表現というものを噛み砕けていない、あるいはそもそも何を表現していいのかわからないけれども自身が持つ何かを外部に出してみた、というようななんとも言葉に表しにくいものがあるのです。それらが何なのか、展示している学生さん自身と一緒に探っていく探索的な体験を味わえます。

制作展には毎回テーマがあるのですが今回のテーマは「VOIDAGE」

Void + Voyage

まさに私がいつも感じていた「積み上げてきたけれどもどう落ち着くのかはわからない」制作展の感覚そのものです。

https://www.iiiexhibition.com/

作品紹介

会場は情報学環本館のオープンスタジオで、主に東京大学の学生さんによる18の作品が展示されていました。いくつかピックアップしてご紹介したいと思います。

cats take care No. 1

中橋 侑里

水がうまくとれない私に、猫は水を飲むように伝える。 給水器には、猫が水を飲むたびに水が溜まっていく。 注がれる水とその音が、私に身体の渇きを思い起こさせる。

東京大学制作展 Extra 2023 サイトより

作者の中橋さんは家で猫を飼っており、以前の制作展でもh(cat)という猫と人間の位置関係を可視化するインスタレーションの展示をされていました。

今回の作品は自宅で猫が水を飲むとそれをセンサーが感知し、会場に設置された蛇口からコップに水が注がれるというものです。特に夏の暑い時期は水不足になりがちですが、猫が水を飲むことで水分補給がリマインドされるので安心です。

これは猫→人間というシステムに見えますが、しばらく水が注がれずに喉が乾いた……となったら人間の方も猫が心配になってなんらかのアクションを起こすでしょうから、実は双方向のシステムですね。この非対称性は人間と猫の関係をうまく表しているように思えます。

水滴の彫刻

伊藤 大貴/伊藤 映美/所 壮琉/濱田 璃奈

水滴が現れては消える環境を用意することで、そこには常に有機的な変化を繰り返す像が作り出される。像が生まれては壊れゆく姿を観察することで、鑑賞者は二度とはないその瞬間の美しさに魅了される。

東京大学制作展 Extra 2023 サイトより

額縁の左右から霧が噴霧され、張られたワイヤーに小さな水の粒が生じ、それらが集まって徐々に水滴となり、やがて落下します。徐々に大きくなる水滴が膨らみ、落下するぎりぎりの瞬間をつい見守ってしまうんですよね。

ワイヤーは対称で張られていますが生じる水滴とその落下にはランダム感があり、極めて人工的な構成であるにもかかわらず自然を感じられるのが面白いところです。スタジオは半地下なのですが背景を窓にしているのがまたうまいところで風景に溶け込んでいます。霧は100円ショップで買った加湿器をバラして作成した装置で発生させ、水滴を生じさせるために様々な太さのテグスを試したとのことでした。

本郷補完計画

二瓶 雄太/乘濵 駿平/福井 桃子/ジャヤビクラマ 幸一/四方 璃玖人/犬田 悠斗/水上 花那/中里 朋楓

本郷キャンパスの表層には、風雨により削られた舗装や剥離した壁面など、積年の痕跡が数多く存在する。意識しないと見えてこない埋もれた痕跡を収集する。欠損部をスキャンして、凹凸を反転させると、異質な素材で痕跡を「補完」することができる。表層はマテリアリティを帯び、痕跡は浮かび上がる。

東京大学制作展 Extra 2023 サイトより

東京大学は伝統のある建物が多く、会場となった情報学環本館もだいぶ古くに建てられたものです。構内を歩いているとあちこちに欠けたところ、割れたところを見ることができます。そんな建物の欠損部分を3Dスキャンし、欠けた部分をデザインし、3Dプリントしただけでなくそれらを実際に埋めてしまうという試みがこの本郷保管計画でした。展示されている部品だけでなく、実際に埋めたところが地図上にプロットされています。以下のような具合です。

1.医学部1号館横緑石の欠け
2.スタジオ付近の室外機の彼損
3.情報学環機のコンクリートの欠損
4.弓道場前の階段の屏の欠損
5.総合図書館脇の手摺の欠け
6.総合図書館脇の階段の手摺の欠け
7.安田講堂横の屏の欠損
8.安田講堂裏の緣石の欠け
9.安田講堂裏の排水溝の磨耗
10.安田講堂→ローソンの階段の欠け

「本郷保管計画」パンフレットより

欠けた場所は60箇所ほど提示されていますが、補完されているのはそのうちの一部。この計画はまだまだ続いていくのでしょう。

暑い中実際に探しに行くかどうかはさておき、日常の中でこうして埋められたところを見かけたら宝探しのような感覚が味わえますね。非常にユニークな展示でした。

年末の本展示へもぜひ!

会場はそれほど大きくないですが、展示を見て説明を聞くだけでも2時間以上は楽しめます。展示はもう終わってしまいましたが、Extraとついている今回は作品のプロトタイプ展示に当たりますので行きたかったという方は制作展のサイトをチェックし、年末の本展示にご参加ください。テクノエッジをご覧になるような方でしたら、何かビビッと来る作品があるかもしれません!

2023年7月7日(金)から7月10日(月)にかけて開催され…

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