M5Stack社ジミーCEOに訊く深圳流ものづくりの極意(その3)

中国深圳のスタートアップ企業であるM5Stack社のジミーCEOと、通訳をしていただいたスイッチサイエンスの高須正和氏にお話を訊いた、前回と前々回のインタビュー記事の続きです。前々回の記事はこちら、前回の記事はこちらを。

M5Stackの方針がブレないのは株主を増やさないから

ー:M5Stackは会社が大きくなっても、最初の理念、ユーザーに良いものを作るとか、ものづくりの速さとかが全然変わってないのも素晴らしいですね。組織が大きくなると、ベンチャー時代とは違って社内の風通しが悪くなったりとかってありがちだと思いますが。

高須:そもそもM5Stackは、80人いる社員の中の50人は製造ラインの人員です。だから、アイデアを統合しようとするのは、残りの30人の問題であると。残りの30人は、半分以上がR&Dで、人としょっちゅう話をしてるからそんなにそこが難しいわけではないというのが理由の1つです。それからもう一つ結構大きな理由が、M5Stackはほとんど株主を増やしてないので70%くらいをジミーが握っているということです。そこも、方針がブレづらい理由ですね。

 会社組織が複雑になる結構大きな要因として、新しいVCからお金を入れたから5年以内にIPOしなきゃいけないとか、そういう風になってくると、会社の方針がめちゃくちゃブレまくるんですよね。それが70%をジミー1人で持ってて、しかもその他は創業時に入れたHAXと、あとM5Stackで使っているCPUを製造しているEspressif Systemsの2つがすごく大きな株主で。その意味であまりブレづらいと思います。中国の最近イケイケのVCとかの資金を入れると、3年でIPOしろよみたいな話になって、なんかよくわかんないけど流行ってるから自動運転やれよとか、そういう話が入ってきて、ろくでもない方向に絶対行くと思います。あと、VCが役員を送り込んできたりすると、ろくでもない方向にしか行かないと思うんですけど(笑)。

 そこはジミーがもう株主増やすのやめたと思ってるようなので、黒字がすでに出てるので、持っているお金を増やして再投資すれば我々の仕事が回るので、ジェット燃料みたいな爆発するかもしれないお金を外から入れる必要は基本的にないんです。

ー:そういう意味では、M5Stackは経営もずっと健全なわけですね。

高須:そうですね、ハードウェアスタートアップの運営って、かなり中小企業っぽいことがやりやすいんですよね。ハードウェアを作ってる限りお金が入ってくるので、お金を払って部品買って、製品を作って売ってお金が入ってきて、そのお金をまた次のとこに回してという、健全な中小企業経営がやりやすいので。

 そのいわゆるスタートアップって、もっとその5年か10年経つと世界がガラッと変わるかもしれないけど、今現在は1円も儲からないようなものを作るところが多いわけじゃないですか。まさにChatGPTみたいな。それがいわゆるテレビによく出てくるスタートアップだと思うし、それはそれで大事かもしれないですけど。

 ハードウェアスタートアップはもうちょっと普通の中小企業っぽいですよ。M5Stackは、逆にいきなりアップル並みの数量を作ってとか言われても作れないので。500万台作ってくれとか言われても、24時間働いても無理ですみたいな話なので。いわゆる日本人にとって馴染みの深い、ちゃんとした中小企業経営がやりやすいんだと思います。

M5Stackを創業したジミーCEO

現状の数ならEMSは不要だが、10倍の注文が来たらEMSも考える

ー:将来的に需要がもっと増えたら、R&Dは中でやるとしても製造はEMSに委託するとか、そういう考えはありますでしょうか?

高須:結局は数の問題で、いきなり10倍の注文が来たらFoxconnなどのEMSへの委託を全然考えないというわけではないと。ただ、今の量でやってる限りだと、結局そういうEMSを使うと製品の値段も高くなってしまう。彼らを使うとものすごい管理コストがかかる。その管理コストは全部意味があるコストではあるんだけど、自分たちが作ったテスト報告書を彼らはそれを3倍に分厚くするみたいなことを普通にやる。もちろん、意味のある分厚さなんだけど、つまりその管理コストを吸収するためには大量発注をしないとダメで、今はそこまでの数は売れてないから、自分たちでやるしかないみたいな部分もある。だから、いきなり10倍とかの注文が降ってきたら、考えなくはないと言ってます。

ー:わかりました。ありがとうございます。

高須:これは僕個人の意見ではあるんですけど、これが深圳の今の面白さでもあるなと。だから商売が見えて企画が見えて製造が見えるっていう人、他の場所で探すのはものすごい大変なんだろうと思います。多分、イーロン・マスクはそれができるから今の立場になってると思うんですけど。

 深圳だとそういう人が結構見つかりやすい。みんな工場長の顔を持ってて、経営者の顔も持ってて、でも基本的にはものを作ってるみたいな人がいるのは面白いポイントだなとは思います。私はインターネットが自由に使えない中国は全然好きじゃないんですけど、でも結局、深圳でないと出会えないような人がいるので今でも住んでいます。

資料を見て相談するM5Stackの幹部達

その4に続きます)

中国深圳のスタートアップ企業であるM5Stack社のジミーC…