M5Stack社ジミーCEOに訊く深圳流ものづくりの極意(その4)
by 石井英男
中国深圳のスタートアップ企業であるM5Stack社のジミーCEOと、通訳をしていただいたスイッチサイエンスの高須正和氏にお話を訊いた、一連のインタビュー記事の最終回となります。1回目の記事はこちら、2回目の記事はこちら、3回目の記事はこちらになります。
決まったゴールはなく、継続して製品を良くし続ける
ー:M5Stackの今後の目標は何でしょうか? 長期的な目標と短期的な目標をそれぞれ教えてください。
高須:まず1つ目の長期的な目標についてですが、M5Stackは会社としての長期的な目標を持たないことが一つの特徴だと。それはなぜかと言うと、とにかくユーザーと対話し、毎日考えながら、誰がどこで難しいと思っているかを見出して、どうやるともっと簡単になるかよりよい製品を作り続けることが、M5Stackの会社としての目的ですと。だから、M5Stackの中だけで決めるものではないし、何がゴールと決めてそこに向けて走るものでもなくて、とにかくものをもっと良くしよう良くしようと。そのきっかけは、使ってくれているユーザーの声を聞き続けることだと言っています。
これは、僕からの追加回答なんですが、深圳の会社はよくそういう回答をするんです。「それが深圳以外の会社との大きな違いだね」とジミーに言ったら、ジミーが「来年以降のロードマップなどを作るのは、株主と投資家がそういうことばかり気にするからで、本当はいらないだろう」と。
そもそも、M5Stackを思いついたきっかけっていうのも、ジミーはずっとArduinoも使っていたし、Raspberry Piも使っていたたんだけど、どうしてもっと簡単にならないのかと。例えば、最終的にケースが必要なのになぜケースが付いてないんだとか、どのセンサーが役に立つかとかどれが互換なのかを調べるのがなぜこんなに面倒なのかと。それから、プログラムを書くと、なぜこんなにコーディングミスが発生するのかと、そういう面倒なことを一つ一つ今のM5Stackは潰してきています。
例えば、UIFlowというソフトウェアがあって、いわゆるブロック型プログラミングなんです。好きな人はすごい好きで、嫌いな人は大嫌いで、大嫌いな人も多いんですよ。だけど、M5StackはUIFlowを誇りを持って開発している。なぜかというと、シンタックスエラーを無くしたいからなんですよ。
ー:なるほど、ブロック型なら打ち間違いによる文法エラーはなくなりますよね。
高須:そうそう。プログラミングに慣れてない人は、そもそもこれで正しいのか間違ってるのかということが分からないから、UIFlowには価値があるとずっとジミーは思っていて、実際に今のユーザーを見てると、売り出したばかりの頃はUIFlowを使う人があまりいなくて、買う人がみんなプログラミングの達人だったから、UIFlowの評判はすごい悪かったんですよ。
ただ、ジミーは根性入れてずっと開発を続けていて、最近はベテランのユーザーでも最初は1回UIFlowで動かしてみて、センサーが正しく動くことが分かってから、Pythonで書いたりするようになっています。簡単というのは1種類だけではないので、UIFlowがもたらす簡単さが大事な人もいっぱいいます。
詳しい方でもあらゆるセンサーに対して詳しいわけではないので、自分が知らない分野のセンサーを買った時などは、最初に1回UIFlowを使ってみて、動くことが分かってからプログラムを組もうとか、その意味でUIFlowが生み出す簡単さもあるし、純正センサーが生み出す簡単さもあるし、もちろんどこでも製品が買えるという簡単さもある。
今のStampだったりAtomだったりというたくさんの製品ラインは、それぞれ違った簡単さを求めて作っているので、それらは多分ずっと作り続けるに違いないと。ジミーの中では、一番いいものができて全部がそれにまとまるようなことにはならないんじゃないかと、今言っていました。

-:ではそれぞれの製品がずっと継続的に良くなっていくイメージですかね。
高須:そうですね、その一つのゴールに集約するものでもないし、そうやってたくさん作ったM5Stackシリーズ、もちろん全部が全部最高というわけではなくて、どれも機会があれば直したいというポイントは無数にあると。そもそも今のM5Stackの製品は全部で300種類ぐらいあって、そのそれぞれにに個別の役割があるから300種類作ったんですけど、結果として初めて触る人からすると、どれを選べばいいかが分からないという、新しい複雑さが生まれたりしています。それも予想すらしてなかったので、どうやるともっと簡単になるかということを考えたりはしています。
ジミーもたまにWebサイトを変えようかなとか言うんですよ。ものが探しづらすぎるとか、どれが1番いいのか分からなすぎるとか。ですから、ずっと作り続けるんじゃないかなとは言ってます。
x86搭載製品やLinux搭載製品を出したい
高須:短期的な話としては、もちろん新製品の計画はたくさんあります。少し予備知識的な話をすると、去年1年間でM5Stackは60種類の新製品を発表しています。つまり、毎週1つ以上新製品を発表しているわけで、毎週1つ以上新しいホームページ作って、毎週1つ以上新しいパッケージを設計して、毎週1つ以上製品の名前を決めたりしてるんですよね。そんな速度は僕も他で見たことがないので、そこはすごすぎる会社だと思っています。
もちろんアイデアはさらにいっぱいあって、M5Stackは我々スイッチサイエンスと月1回ミーティングをやってて、そのミーティングの時に次回以降出す製品が出てくるんですけど、毎回70個ぐらい書いてあるんですよ。その70個ぐらい書いてある中で、これは2ヶ月以内に出すとか、これは来週出すみたいな話をしてて、これはプロトタイプを今作り始めたんだけど、いつ出るかは分からないみたいなのも入っている。だから作りたいものは無限にあると。
ただ、それを少し整理して話をすると、まず今あるやつをもっといいやつにしようっていう考え方はあって、M5Stackの主力製品に使われているESP32シリーズのCPUに、最近S3という新しいやつが出たんですよ。古いのは古いので良さがあるし、古いのを使ってる人もいるから、今のM5StackのBasicやCoreは相変わらず売り続けるけど、それはそれとしてS3を搭載したいろんなものを出していく。BasicはCoreS3になるし、StickもStick S3になるし、ATOMもATOM S3になる。ESPのメーカーは、M5Stackのかなり大きな株主でもあるので、新しいCPUにはなるだけ対応していくと。

それとはまた別の話として、今やっていないことをやるっていう意味で言うと、いつやるかはちょっとまだ分からない、多分2024年以降ぐらいになると思いますが、今のM5Stackシリーズにはないx86搭載シリーズとLinux搭載シリーズはやりたいと。Linux搭載シリーズについては、今現在CM4Stackという、Raspberry Piのコントローラー部分が入ってて液晶画面が付いててI/OはM5Stackが作ったのが付いている、だからほとんどRaspberry Piみたいなやつが出ていて、それはLinuxが動いてます。中国には、他にも魅力的なLinuxが動くチップを作る会社があります。M5Stackの製品でも、いくつかの製品はLinuxが動くような強力なCPUを積んでいますが、そのシリーズはそのシリーズでもう少し増やしたいと。
それから、x86もぜひやりたいと。Windowsが動く製品をやりたいと。実際、僕は、3年前ぐらいからそのプロトタイプをよく見てます。そのときに「結局、どうなのこれ?」って訊くと、「売るまでにはいかないかな。出しても売れないと思う」とか。でも追っかけてはいますと。

マイクロコントローラのラインナップとして、今はないx86とLinux対応をやりたいと。Linuxのほうが早めにできそうで、x86はまだもう少し先かなと。それから、センサーについては、まだ今は対応してないセンサー類にももっと対応するようにしていきたい。それと、対応してないバスもまだたくさんある。
特にどの部分で多いかっていうと、CANとかRS485とかPLC、つまり工場で使うやつに関しては、まだまだやれることいっぱいあります。工場でM5Stackの製品を求めているところはたくさんあるので、そちら系の新製品を増やしたい。確かにここ2年ぐらい、工場のDINレールにマウントできる製品とかそういうラインナップをすごく増やしてるんです。あと、工場用の信号に対応した製品とか、工業系のセンサー、暗いところでも使えるとかバーコード読めるとか、そういうのを増やしてて工場向け製品にも力を入れたいと。
I/Oの部分でいうと、もう少しいろんなカメラに対応できるようにしたい。それにはCPU性能も必要になるから、S3になったら使えるカメラも増えてくるとは思うんですけど、カメラはもう少し増やしたい。カメラは入力側ですが、出力側ではモーターをもっと自由に扱えるようにしたい。
今、実際、ジミーたちが計画してる中でも、ブラシレスDCモーターとかダイレクトドライブモーターとか、下手すると自動車が作れるくらいのパワフルなモーターをM5Stackでコントロールできるようにするユニットをいくつか作っていて、中国でもパワフルなモーターは最近たくさん出てて、スイッチサイエンスもたくさん売ってるんだけど、使い方がわかんないから買えないっていう人も結構多いんですよ。そこで、「M5Stackを繋げれば簡単に使えるようになる」という製品は大きな可能性がありそうだし、言い出すときりがないぐらい、新しい製品の計画はたくさんありますと言ってました。

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