プロカメラマンに学ぶ写真と映像 #3 -映画の撮り方を聞く-

本記事は、筆者がプロカメラマンのヤギシタヨシカツ氏の力を全力で”無駄遣い”して写真・映像のいろはを学ぶシリーズです。今回は第3弾として映画・ドラマのカメラマンも務めるヤギシタ氏から、プロの映像の撮り方を解説していただきました。なお本記事は動画との連動記事となっておりますので、過去のシリーズと共にご覧ください。

過去のシリーズ

はじめに

Insta360 Flow Pro(公式HPより)

本記事の執筆にあたり筆者は本誌であるテクノエッジよりInsta360 Flow Proのレビュー依頼を受けておりました。(同品のレビュー動画は近日公開予定です。)筆者も本レビューにあたり公式ホームページを閲覧しておりましたが、そこで以下のような文言に引っかかりました。

昨今のVlogカムに始まり、撮影機材の高性能化の謳い文句としては使い古されているようにも思う「プロのような」という言葉ですが、「では実際にプロはどのようなことに注力し、また最新の撮影機材やガジェットをどう駆使すれば本当のプロのような映像を撮ることができるのか」という疑問が湧いたのです。そこで本記事ではInsta360 Flow ProでVlogを撮影することを前提として、伝わりやすいプロのような映像の制作のセオリーについてヤギシタ氏に解説していただき、スマホジンバルの活用方法について考えていきました。

違和感を乗りこなす

映像制作の主たる目的は第三者に何かを伝えることであり、意図を明確に伝えるためには「違和感」を乗りこなす必要があります。この違和感について映像で例えるなら「前後のカットで繋がりがない」「急に場面転換が入り何が起きているのかわからない」などが考えられます。(筆者個人の体験として伏線が張られたが回収されずに映画が進み、ストーリーに集中できなかったことも違和感と捉えられるでしょう)

実景撮影で説明的なカットを演出

映像制作における実景とは、風景や建物などの出演者がいない撮影カットのことを言います。映画やドラマでは実景を視聴者に見せることで、実景後の場面転換(背景情報、時間帯、人物の心理状態)を暗に伝えることができます。

この実景について、実景の構成と実景ごとの意味、撮影時間を大まかに表すと下図のようになります。実景のセオリーとしては初めに場面の外観(大まかな場所、天気、時間などを暗に説明する実景)を映し、次に近接の実景(場所の名前や雰囲気など)を映すように構成し、各実景は最低でも3秒、動画素材の前後をカットするため+1秒づつ追加し最低5秒以上撮影すると良いと思います。

実景のセオリー

では試しに、3カットを繋いだ実景をご覧いただきたいと思います。

この実景では初めに外観を映すことでまだ日のある時間帯であることがわかり、次に内装を映すことで場所の雰囲気が伝わり、最後の近接映像で「撮影者が洗濯中」である可能性を暗に示唆することができます。

スマホジンバルを活用して違和感を操る

さてここまでは映像のテクニックでしたが、直前に示した実景の例では若干の手ぶれが気になります。もちろん後処理で補正することにより手ブレを軽減させることができますが、ソフトウェアによる過度な補正は画角を縮小させたり映像に歪みを発生させることとなります。そこで、ここではInsta360 Flow Proを使って品質の高い実景撮影を試みたいと思います。

使用する機材はiPhone14 ProとInsta360 Flow Pro、編集ソフトはDavinci Resolve18を用い、前述の実景と同様の構成の映像をInsta360 Flow Pro、およびDavinci Resolve18の手ぶれ補正機能を使って作成・比較していきます。以下はいくつかのパターンで撮影、編集した実景映像比較です。

比較するとiPhone単一の映像が最も手ブレしていることが分かります。さらに手ブレを補正した映像について、iPhone+手ぶれ補正の映像とiPhone+Insta360 Flow Pro+手ぶれ補正の映像はほぼブレがない映像となりました。一方で、iPhone+手ぶれ補正の画角を見ていくと補正前と比べた場合に画角が狭まっていることが確認でき、これに対しiPhone+Insta360 Flow Pro+手ぶれ補正の画角はほぼ変わらないことが確認できました。今回のiPhone実景の撮影ではその場にゆっくり立ち止まって撮影したため大きく画角が狭まらない結果となりましたが、Vlogなどで移動しながら撮る場合についてはさらに画角が狭まることが予想できます。

iPhone画角比較(左:手ぶれ補正なし、右:手ぶれ補正あり)
Insta360 Flow Pro(左:手ぶれ補正なし、右:手ぶれ補正あり)

おわりに

今回はInsta360 Flow ProでVlogを撮影することを前提として、伝わりやすいプロのような映像の制作のセオリーについてヤギシタ氏に解説していただき、その実践とInsta360 Flow Proの有無による実景の品質の違いを見ていきました。結果としてiPhone+Insta360 Flow Pro+手ぶれ補正が撮影時とほぼ変わらない画角で違和感の少ない実景を撮影することができました。

次回はおすすめの実景について解説いただく予定です。

本記事は、筆者がプロカメラマンのヤギシタヨシカツ氏の力を全力…