ハートフルだがピリリと辛いインディーゲーム「メグとばけもの」
by 七瀬陽平
皆さんには何か好きなインディーゲームのタイトルがありますでしょうか?
そもそもインディーって何? という話を始めると長くなってしまうのですが、筆者にとってのインディーゲームとはそんなにボリュームはなく、何もかもクオリティが高いというわけではないけれども、心に何か刺さるものがある作品です。筆者は割と予算がかかったゲームを好む傾向があり、インディーゲームに深く精通しているわけではないのですが、それでもふとしたきっかけで遊んだ結果忘れられないインディータイトルにはいくつか遭遇しています。
そんな作品の一つがOdencatの「メグとばけもの」です。

このタイトル画を見て皆さんはきっと「なるほど、きっと森の奥で孤独に生きていたモンスターが女の子と出会ってそのピュアさに徐々に心を開いていくような物語なんだな」と思うでしょう。そういう物語って古今東西たくさんありますよね。
しかし!
そんなありふれた物語に見えるものが、RPGの体裁を取ったゲームシステムによって体験として形作られ、主人公の心の機微を眺めるのではなく我が事として感じ取ってしまう。それがOdencat作品の魅力です。

魔界に住む魔物のロイとゴランは、魔界に迷い込んだ人間の少女メグを見つけます。
らんぼうもののロイですが、迷子になったメグを探したり、一緒に星空を見上げたりするうち、次第にメグと心を通わせていきます。
そして、メグを母親のもとに送り届けるため、人間の世界へと向かうことになります。
「メグとばけもの」公式より。
メグを連れて魔界を歩き回り、人間界に至る道を探っていきます。魔物とは文字通り人間にとって恐ろしい生き物たちです。人間の女の子に過ぎないメグを狙う魔物は後を絶ちません。物語中ではしばしばトラブルが起こり、戦闘が発生します。

しかしこのロイ、強いんですね。無敵といって良いレベルです。敵を倒すだけなら楽勝です。が、もちろんそんな簡単には済みません。敵の攻撃でロイがぜんぜんダメージを受けなくても、ロイの背中に隠れているメグは徐々に神経をすり減らしてやがて泣いてしまいます。そのため、戦闘中におもちゃで遊んであげるなどして安心させてあげなくといけません。
まあ普通に考えればメグを泣かせておいてでも戦闘に勝つ方が大切ですよね。でもこのゲームでは違うんです。メグが泣いてしまうと大変なことが起こってしまいます。何が起こるのかはゲームを遊んで確かめてください!
さて、RPGをよく遊ぶユーザーならここまで読んでもそんなに面白さにピンと来ないかもしれません。ロイがほとんどダメージを受けず、代わりにメグの精神力が減っていくというだけだと管理すべきリソースがちょっと変わっているというだけですよね。
コマンド式RPGの戦闘はこのリソース管理が醍醐味です。コマンドを入力し、結果を待つタイプの戦闘ではプレイヤーの操作の上手下手はあまり結果に影響しません。プレイヤーは初めて遭遇する敵に対して様々なことを試し、何発で倒せるのか、有効なのは直接攻撃なのか、魔法なのか、魔法だったらどんな魔法なのかということを見極め、知識として蓄積していきます。
知識がある程度ついたら次はどれだけ効率的に戦うかということが問われます。攻撃魔法を使うとMPが減ってしまいますが、最初のターンで強い全体魔法を使えば弱い敵が一層できて戦闘時間が短縮し、結果的に回復魔法に使うMPが節約できるなら攻撃魔法を使った方が効率がいい、というような戦い方を組み立てていくわけですね。
例えばドラゴンクエストならRPGは限られたHPとMP、手持ちの回復アイテムを使ってダンジョンのいちばん置くまで行き、ボスを倒すというところまでがリソース管理の1セットです。
しかし「メグとばけもの」ではそんなに頻繁に発生するわけではなく、HPもメグの精神力も毎回回復しています。こうなるとプレイヤーは主人公のロイで敵を殴り、メグの精神力があと一撃でなくなると思ったら遊んで回復させ、また殴るということを繰り返せば良いわけです。これだけだと当たり前のことを当たり前にするだけの作業になってしまいます。しかし、もちろんそれだけではないから「メグとばけもの」は傑作なのです。

「龍が如く7 光と闇の行方」はもともとアクションRPGだった「龍が如く」シリーズの戦闘からアクションを削り、コマンド式RPGとしてリリースされました。主人公の春日一番は子供のころからRPGをプレイし「喧嘩になると頭の中でドラクエの戦闘シーンがまわる」と劇中で発言しています。
春日一番に限らず、コマンド式RPGで育ってきた世代の頭の中には様々なRPGで味わった多くの局面が詰まっていますよね。セーブポイントのないダンジョンを何時間も歩いてザコ敵の全体攻撃で全滅したり、最後に生き残ったいちばん頼りな異パーティメンバーのクリティカルでラスボスを倒したり、こんらんした味方がランダムで唱えた呪文で辛くも生き残ったり。
「メグとばけもの」には本格的なコマンドRPGのリソース管理はありません。それでもプレイヤーに蓄積されてきたRPGのノウハウは表示された数字の増減の中に過去の経験から得た微妙な機微を見出していきます。硬い敵、柔らかい敵、メグの弱さ、ロイの強さ。敵となる様々な魔物たち。そしてそれらと戦う間に訪れるロイとメグの変化。
そのとき、ドット絵で描かれたシンプルな戦闘シーンはどんな大作映画にも負けないエモーショナルな光景と変化します。このゲームを傑作と言わせるのは、古今東西のあらゆるコマンド式RPGとそれを遊んできたプレイヤーそのものなのです。
ドットと数字を通して語られる、言葉にならない感覚を、ぜひみなさんも味わってみてください!
「メグとばけもの」公式
https://odencat.com/bakemono/ja.html
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