プレイヤー自身が探偵として成長できる本格推理アドベンチャー「超探偵事件簿レインコード」

 2010年にリリースされた「ダンガンロンパ」は学園生活デスゲームとして一世を風靡し、2017年の「ニューダンガンロンパV3」まで3作発売されました。一定期間で誰かを殺さないと全員が死ぬ、殺人が起こったら学級裁判が開かれ、犯人が有罪にならなければ犯人の勝ち、有罪になれば犯人が処刑という衝撃的な内容です。超高校級の特技を持つからこその奇想天外な犯罪、学級裁判で展開されるスリリングなやりとり、ショッキングな殺人現場と処刑シーンなど忘れられない傑作の一つです。

 そこから数年。満を持して「ダンガンロンパ」開発元のスパイク・チュンソフトと「ダンガンロンパ」のシナリオを手掛けた小高和剛さん擁するトーキョーゲームズから送り出されたのがこの「超探偵事件簿レインコード」です。

 https://www.spike-chunsoft.co.jp/raincode/

 舞台は常に雨が降り続く街、カナイ区。記憶を失った主人公ユーマはカナイ区の秘密を探り、最大の未解決事件を解決するという使命を背負って超常的な探偵能力を持つ超探偵の仲間たちと数々の事件に挑んでいくというのがメインのストーリーです。

この時点ですでにだいぶ現実離れした設定なのですが、主人公にはさらに死神ちゃんと名乗る死神が取り憑いているんですよね。死神ちゃんは普段はふわふわと漂うマスコットキャラクターのような存在ですが、事件の操作が進み推理のための情報が揃うと謎迷宮という異空間を作り出すことができます。この迷宮を突破し、真相究明を邪魔する謎怪人と戦い、真実に迫るというのがゲームのメインです。

 さて、この「謎迷宮」という存在が本作最大のポイントです。「ダンガンロンパ」はデスゲームというテーマ、エキセントリックなキャラ、陰惨な殺人と処刑など目を引く派手な要素が多いですが、実は殺人事件のトリック、それを解いていく過程、その背後にある人間関係など非常に骨太な内容で推理ドラマとして本格的なんですよね。

そうした背景がある中、探偵が殺人事件を捜査するという正統派のコンセプトを見るとハードボイルドは本格推理物を期待してしまうわけです。正直なところ、ダンガンロンパの時は途中にあるミニゲームがそんなに面白いと思えるものではなく、仕方なくやっている感がそこそこあったので、謎迷宮の最初の印象は「ちょっと面倒だな」でした。

 しかしその印象もしばらくすると払拭されます。謎迷宮はゲームの時間を引き伸ばしたり、他の推理アドベンチャーとは経路が違うという様子にするためにとってつけたように加えられたシステムでは断じてなく、謎迷宮の中を歩いて障害を突破していくことじたいが主人公ユーマの頭の中で事件を解いていく過程そのもの、そして謎迷宮を突破できることじたいプレイヤーが自分頭で事件を考えて解いている証左になるのです。

 かつての推理アドベンチャーは選択肢総当たりをすればなんとなく事件が進んでいくというものが多かったように思います。もちろん漠然と進めるのを防ぐために途中で決定的な証拠となるものを多くの選択肢から選ばせたり、犯人を指摘したりという要素もありますが、そのタイプはあくまでそれまでの話を理解しているかどうかに過ぎません。

 ダンガンロンパの学級裁判は主人公だけでなく多くの登場人物がいるため、複数の証言や意見の中からどれが正しいかを選んでいくことになります。これは参加の形式からも自然で、主人公が展開の中では目立たなくてもどちらの陣営が正しいのかをずばっと指摘することで活躍していることが示せますし、デスゲームという性質上だんだん参加者が減っていって主人公の発言比重が増えていき、自然と難易度が上がる点もゲームとマッチしており、秀逸なシステムでした。

 それに対し、レインコードは基本的に主人公一人です。死神ちゃんというパートナーはいるわけですが、死神ちゃんは基本的に積極的に事件の正解に迫ろうとはせず、やじを飛ばすタイプ。実は謎迷宮に複数人で挑む場合もあるのですが物語上の設定で巧みに主人公しか活躍できないようになっています。

 基本的には長い通路を歩いている間に主人公と死神ちゃんの会話によって状況が整理され、真実から主人公を遠ざけようとする謎怪人が飛ばしてくるコメントから「そうではない」という理由を考え、ルート選択によって仮説を一つずつつぶしていく、ということをしています。]

漫画やドラマの場合、探偵がずばっと真実を言い当てるわけですが、レインコードはそこにいたるまでの頭脳労働の泥臭い部分を迷宮探索と戦闘という形で表現しているわけですね。これによってプレイヤー自身が思考の過程をトレースするので、与えられた中から正解を選ぶというだけではない、自分の頭で考えた推理の組み立てが成立していきます。

 よくできているなと思ったのは選択肢を間違ったときに何が違っているのかを改めて考える必要があることです。これをしっかりすることによって単に正解を探すのではなく、事件を解くために間違った仮説もあえて検証して消していくというプロセスを味わえます。

 事件のバリエーションもなかなか豊富で、どのように殺したか(ハウダニット)、誰が殺したか(フーダニット)、なぜ殺したか(ホワイダニット)それぞれのパターンとその組み合わせ、方法はわかったけれども容疑者の中に実行可能な人間がいないなど、ミステリの基本から応用、そして普通のミステリにはない大どんでん返しなど様々な推理を体験させてくれます。徐々に難しくなるのに、終盤ではまだ触れられていないところに「あっ」と気づいてしまうなど自分自身の成長を感じられ非常に手応えがありました。

 これまで書いてきたように「超探偵事件簿レインコード」は「ダンガンロンパ」の系譜でありつつ、より本格的にミステリに誠実な作品として完成されています。そして、そこにフォーカスしたためあまり書いてはこなかったのですが、しょうもないギャグやショッキングなシーン、エキセントリックな登場人物などシナリオライター小高和剛の小高節は健在。死神ちゃんもさいしょはちょっとうざいのですが、最後の方はほんとパートナーとしてかけがえのない存在になっていきます。

 Switchなのでちょっとロードが重いのは珠に傷なのですが、Unreal Engineで開発されておりいずれPS5やXBOX、PCなど他のハードウェアにも移植されるのかもしれませんね。

 ダンガンロンパが好きだった方はもちろん、ミステリアドベンチャーがお好きな人にもおすすめです。非常に刺激的な一作ですよ!

 2010年にリリースされた「ダンガンロンパ」は学園生活デス…